Jan
7th
Wed
7th
「心の哀しみ、切なさといふものが、どれ程人間の生涯を美しくするものだらう。私はこの頃それに気がついてゐる。哀しみに満ちた私の生涯が不意に去つて、青い空のやうな幸福が遣つて来るのを来る日も来る日も待つてゐて、待つてゐて、待ちくたびれたこの私が、このごろではその哀しみが、私の人生を美しくしてゐることに気づいてゐる。哀しみは生活の羅(ヴェエル)なのだ。薄い、綺麗なヴェエル。町そのものは決して綺麗ではない。女の裸だつて、芸術家の目を通して、綺麗なのだ。美を識らない男が見る時、そこにはヴォリュプテしかない。さうしてヴォリュプテも、其処では半減されてゐる。それと同じに人生は、哀しみを通して美しい。別れない恋人なんて、恋人ぢやない。死なない人間がもしあつたらどんなに醜いだらう。青春は過ぎ去るから綺麗なんだ。追憶は、今現実にないから美しいのだ。さうして死と一緒に消え去るから、恋しいのだ。」